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有古ニュース  2010.7


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■弁理士 市川友啓

「第3回特許法改正後の中国意匠制度について」

1.はじめに

 華為技術(ファーウェイ・テクノロジー)という中国の企業をご存知だろうか。
昨年の売上高が233億ドルに上る中国の巨大通信機器メーカーであり、華為技術の昨年のPCT出願件数は、パナソニック、フィリップス、トヨタを抜き世界 最多であった。しかし、中国国外におけるこの企業の知名度は低い。華為技術に限らず、現在の中国を代表する企業の多くについて同じことがいえる。
 この理由の一つに挙げられているのが、中国の知的財産権の保護の弱さである。技術の模倣、盗用を容易に許してしまう知的財産制度下では、巨額の投資を伴 う基礎技術開発を行い付加価値の高い製品を生み出しても、他社による技術の模倣、盗用により、投資に見合うだけの見返りを得ることが難しく、このような投 資は非常にリスクが高いものとなる。その結果、多くの中国企業は、技術開発を行い付加価値の高い製品を生み出すのではなく、他社製品の模倣に走り、ブラン ド力の源となる付加価値の高い製品を生み出すことが出来ない状況下に置かれている。華為技術もその例外ではなく、上記出願の大多数は、既存の技術の軽微な 改良に止まる。
現在、中国の指導部は、この様な状況を抜け出し、付加価値の高い製品を生み出すブランド力を有する企業を育成しようとしている。
 第3回改正特許法が2008年12月27日に採択され、2009年10月1日より施行されているが、この改正には、中国の指導部の上記の意図が反映されているといえるだろう。
 中国では、意匠は特許法によって保護されており、今回の改正によって、意匠に関する制度も多数改正されている。
 本稿では、今回の法改正によって中国の意匠制度がどのように変わったのかについて述べたい。まず、中国意匠登録制度の特色についてふれた上で、意匠に関する制度の改正点について述べ、最後に、中国意匠出願を行う上での留意点について述べる。

2.中国意匠登録制度の特色

 中国特許庁の発表によると、2008年の中国の意匠出願件数は、31万件超であり、その数は、特許出願及び実用新案登録出願の件数を上回っている。その 理由の一つに、中国意匠登録制度では、無審査登録制度でありながらも、日本の実用新案登録制度における技術評価の請求のような手続きを踏むことなく権利行 使を行うことができる比較的強い権利が与えられることが挙げられる。中国に製造拠点を有していたり、中国市場で商品の販売を行ったりする場合は、自らの製 品について勝手に意匠登録出願を行い、意匠権を取得した第三者に権利行使されないよう、或いは、権利行使された場合でも即座に反論できるよう、中国意匠出 願を行う必要性を特に注意深く検討する必要があるものと思われる。
 中国意匠権の存続期間は、出願から10年である。

3.改正事項

中国特許庁は、法改正の背景として下記事項を挙げている。
・特許、実用新案、及び意匠制度が発明及び創造への奨励作用をより発揮させるために、発明創造
にお いての権利帰属関係をさらに明確にする必要がある。
・実用新案と意匠の出願件数及び権利付与件数は少なくないが、権利の安定性が足りなく、全体の
質を向上させる必要がある。
・特許権、実用新案権、及び意匠権の行政及び司法保護に依然として不備なところがあり、これら
の権利に対する保護をさらに強化させ、権利者に適時且つ効果的な保護を提供すると共に、社会
公衆の合理的権益を保護し、権利者と社会公衆の利益の合理的なバランスを図らなければならな
い。

以下、意匠制度に関連する改正事項について述べる。
なお、2009年10月19日現在、改正特許法の運用を定める改正特許法実施条例(現行の特許法実施細則は、改正に伴い、名称も特許法実施条例に改めら れる。)、及び改正審査基準は施行されていないが、既に発表されている特許法実施条例改正案、及び審査基準改正案に基づいて出願等の実務が進められている ので、当該改正案に基づいて述べるものとする。今後、改正案に修正が加えられ施行される可能性があるので、その場合は、当該箇所を各自修正頂きたい。ま た、理解し易いよう、誤解が生じないと思われる範囲において、出来るだけ日本において用いられている用語を用いた。

(1)公知、公用の地域的基準の拡大(特許法23条1項)
従来から、出願に係る意匠が中国内外の刊行物に記載された意匠に同一又は類似する場合は、その出願に係る意匠は、登録要件を満たさないとされていた。
しかし、刊行物に記載されておらず、中国国外で公然知られているにすぎない意匠は、登録要件を満たすものとされていた。
今回の法改正により、中国国外で公衆に知られている意匠も登録要件を満たさないものとされ、いわゆる絶対新規性基準となった。

(2)登録要件に創作非容易性を追加(特許法23条2項)
従来は、登録要件に創作非容易性は求められていなかった。
今回の法改正により、登録要件に、出願に係る意匠が、「既存の意匠」又は「既存の意匠の特徴の組み合わせ」と比べて「明らかな違い」を有する意匠であることが求められるようになった。
この明らかな相違がないとは、次に掲げるような意匠である(審査基準案)。
(a)「既存の意匠」又は「既存の意匠の特徴の組み合わせ」と、出願に係る意匠との相違点が製品
の意匠全体の視覚効果に顕著な影響を与えない場合
(b)出願に係る意匠が、「既存の意匠」を既知の手法を用いた変換を施して成されるものである場

(c)出願に係る意匠が、「既存の意匠」又は「既存の意匠の特徴を既知の手法を用いて組み合わ
せて成されるもの」である場合
詳細は、審査基準改正案をご参照頂きたい。

(3)抵触出願に関する規定を追加(特許法23条1項)
今回の法改正により、出願に係る意匠の出願日以前に出願され、更に、出願に係る意匠の出願後に公開された公報に記載されている意匠と同様の意匠は、登録要件を満たさないものとされた。
日本の「拡大された先願の地位」に類似する制度であるといえるが、同一出願人による出願にも適用がある点で注意を要する。

(4)関連意匠制度の導入(特許法31条2項)
今回の法改正により、関連意匠制度が導入された。関連意匠として出願できる意匠は、意匠に係る物品が互いに同一であり、基本意匠(日本における「本意 匠」に相当する)に類似する意匠である必要がある。関連意匠は、所属分野の設計者にとって、基本意匠と比較したときに「明確な差異がない」意匠を指すと規 定されている(条例案42条)。
また、日本の関連意匠制度では、基本意匠と関連意匠とは、別の出願であるが、中国の関連意匠制度では、基本意匠と関連意匠とで「一出願」を構成する。
更に、関連意匠は10以下に限られている。(条例案42条)

(5)意匠の簡単な説明が必須記載事項となった(特許法27条)
今回の法改正により、意匠の簡単な説明が必須記載事項となり、権利範囲を定める際、意匠の簡単な説明が参酌されるようになった。
なお、意匠の簡単な説明には、下記事項を記載しなければならない。(条例案34条)
(a)意匠に係る物品の名称
願書の意匠に係る物品の名称と一致させる。
(b)意匠に係る物品の用途
意匠に係る物品の区分確定につながるような用途を明記する。複数の用途を持つ物品は、複
数の用途を明記する。
(c)意匠の要部
出願に係る意匠の従来意匠と区別される形状等を簡潔に記載する。
(d)意匠の特徴が最も表れている図面又は写真
指定された図面又は写真は、意匠公報の発行時に利用される。
また、優先権を伴う中国出願の基礎出願に意匠の簡単な説明が含まれていない場合において、中国出願において意匠の簡単な説明を追加するときは、先の出願の図面等に示された範囲を超えないようにしなければならない(条例案38条)。

(6)図面等の明確性に関する規定の追加(特許法27条)
今回の法改正により、図面又は写真は、保護を求める製品の意匠を明確に示すものであることが要求される。

(7)商標的機能を有する意匠を登録対象から除外(特許法25条)
平面印刷物の図案、色彩又は二者の結合によって作り出された主に標識の作用を有するデザインは、登録要件を満たさない旨規定した。
即ち、出願に係る意匠において、
(a)意匠に係る物品が、平面印刷物に属するものであり、
(b)当該意匠が図案、色彩又はこれらの組合せによって作成され、
(c)当該意匠が主に表示を機能とする
ものであるときは、登録要件を満たさない。
また、出願に係る意匠が上記(a)~(c)を満たすことが明らかなときは、方式審査において拒絶され、登録されない(審査基準案)。
今まで、外国企業は、商標出願と同時に商品パッケージを意匠出願し、商標権獲得までの間の保護手段として意匠権を用いていたが、このような意匠出願は行えなくなった。

(8)販売の申し出を実施行為に追加(特許法11条)
従来、意匠権者の許諾を受けずに実施してはならない行為として、製造、販売、及び輸入が挙げられていた。
今回の法改正により、意匠権者の許諾を受けずに実施してはならない行為として、上記行為に加え、「販売の申し出」が加えられた。

(9)侵害訴訟に関する制度の拡充
○権利評価報告(特許法61条)
意匠権の侵害訴訟において、裁判所は、権利者及び利害関係人に、中国特許庁が作成した意匠権の「権利評価報告」と証拠として提出するように要求するこ とができるようになった。権利評価報告では、新規性及び進歩性以外の特許要件についても評価される。この権利評価報告を特許庁に対して請求できる者は、意 匠権者及び実施権者に限られている(条例案60条)。従って、意匠の実施を希望する第三者は、権利評価報告の請求を行うことができない。また、意匠権侵害 で警告を受けた場合、警告を受けた者は、自ら権利評価報告を請求し、相手方の権利の有効性を確認することはできない。この場合、相手方に権利評価報告の提 示を求めることになるであろう。
意匠権者にとって不利な報告が作成されるときは、意匠権者は意見を述べる機会が与えられる。但し、応答期間は、15日と短いので注意を要する(条例案60条)。
作成された権利評価報告は、公開される。また、権利評価報告は、一回のみ作成される。

○公知技術の抗弁(特許法62条)
意匠権の侵害訴訟において、被告が自己の実施に係る意匠が公知意匠であることを証明した場合は、非侵害となる旨規定された。

(10)その他
意匠の定義が追加された(特許法2条)

4.中国意匠出願における留意事項

(1)意匠の簡単な説明
上述の通り、改正後は、「意匠の簡単な説明」を記載しなければならなくなった。
優先権を伴った中国出願を予定しているときは、中国出願時に「意匠の簡単な説明」を追加すると、先の出願の図面等に示された範囲を超えてしまい優先権が 認められない可能性が生じるため、基礎出願において、当該「意匠の簡単な説明」に相当する事項を基礎出願において、開示しておくことが望ましいと思われ る。
特に、基礎出願において、意匠の要部を記載することを望まない場合は、日本出願と同時期に中国出願を行うことが望ましいと思われる。

(2)関連意匠
上述の通り、関連意匠とは、所属分野の設計者にとって、基本意匠と比較したときに「明確な差異がない」意匠であるとされているが、この「明確な差異がな い」ことに係る判断基準が示されておらず、日本の「類似」に係る判断基準との違いが明らかではない。今後、明らかになるであろうが、日本の関連意匠の「類 似」に係る判断基準と、中国の関連意匠の「明確な差異がない」ことに係る判断基準とが大きく相違するようであれば、日本では、関連意匠と認められるような 意匠であっても、中国では、関連意匠と認められないケースが多数出てくることが予想される。

(3)その他の留意事項
法改正に関係しないが、中国意匠出願において留意すべき一般的な事項について、以下述べる。
○部分意匠
今回の改正では、部分意匠制度は、引き続き導入されていない。

○組物の意匠
組物の意匠は、従来から保護されているが、日本の組物の意匠と定義が異なるので注意する必要がある。中国における組物の意匠とは、意匠に係る物品が、 ロカルノ分類において互いに同一区分に属し、且つ、セットで販売又は使用される意匠を指す。また、組物を構成するそれぞれの物品に係る意匠が、同一思想の もと創作された意匠でなければならない(特許法31条)。

○色彩
中国では、図面等に色彩が付してある場合でも、「保護請求の意匠が色彩を含む」、即ち、意匠に付された色彩を権利範囲に含める旨を記載しなければ、色 彩は意匠を構成しないものとされる。規定上明らかになっていないが、基礎出願が日本意匠出願である場合であって、当該出願に係る図面に色彩を付している場 合、基礎出願と優先権を伴う中国出願との同一性を維持するため、中国出願では「保護請求の意匠が色彩を含む」旨主張すべきと解される。

○新規性喪失の例外適用
日本では、意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因して新規性を喪失した意匠について新規性喪失の例外適用を受けることができるが、中国ではこのような事由による新規性喪失の例外適用は受けられないことに留意する必要がある。

○補正
自発補正は、原則、出願後2ヶ月以内に行うことができる。

5.おわりに

 以上、簡単に第3回特許法改正における意匠に関する規定の改正についてみてきた。登録要件の基準の引き上げや、権利評価報告制度などは、無用な争いの解 消に対して一定の効果を奏するものと思われる。一方、既に特許法が施行されているにもかかわらず運用が不明確な部分が多く、特に改正前に出願した日本意匠 出願を基礎出願とする優先権を伴った中国意匠出願を行う際、「意匠の簡単な説明」において、どのように記載すれば優先権が認められ、更に記載要件を充足す るのかについて、多少の混乱が予想される。今後の中国特許庁の発表が待たれる。

                                                               以上

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