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有古ニュース  2010.8


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■弁理士 浦利之

中小企業に対する知財支援業務

1.はじめに

 日本国内に中小企業がどれほど存在しているかご存知でしょうか?中小企業庁によると、日本の企業数の99%以上が中小企業であり、国内の約7割の雇用を占 めているとのことです。その中には、優れたアイデアや高い技術力を武器に、大企業を向こうに回して果敢に挑戦し続けているところがたくさんあります。一 方、近年の株価暴落に伴って日本経済も急減速したまま、まだ浮上する確かな傾向は見えていませんが、このような景気減衰の影響を最も受けやすいのも中小企 業です。
 例えば、大手取引先の輸出量減少に伴う減産体制の煽りから、中小製造業では在庫の製品が捌けない状態です。そのため、生産指数は急速に低下し、05年比 で昨年8月に約98であったのが今年2月には約77までに至っています(中小企業庁「規模別製造工業生産指数」)。また、資金繰りでは、地価下落による担 保力の低下やその他の要因によって借り入れが容易ではなくなる一方、受注の減少に伴って借入金の返済資金調達に苦慮し、政府の緊急保証制度を利用せざるを 得ない、といった実情もあるようです。
 このような現状において、弁理士がその専門性をもって、より積極的に中小企業を支援することはできないでしょうか

2.知財コンサルタントの魅力  

 これまで、特に事務所勤務の特許担当弁理士においては、発明の権利化、あるいは特許権等侵害訴訟の代理業務などを主な取り扱い業務としているものと思い ます。そして、収益性の問題など様々な理由から、中小企業に対する支援については、積極的な取り組みが広く行われているとは必ずしも言えないと思われま す。しかしながら、これまでの消極的姿勢にならざるを得ない理由はさておき、知財コンサルタントとしての中小企業への支援業務には、他の業務とはひと味違 う魅力があると思います。
 例えば、中小企業の経営者には、特許権を取得することの意義を十分に実感できず、単に保険に入ったのと同程度にしか認識されない場合があります。しかし ながら、企業の知財活動は、本来その企業の経営活動と密接に関連しているはずのものゆえ、適切な知財活動を実行すれば企業の業績アップに直接的に貢献でき るはずです。そのためには、各企業の実情に合致する必要があることから、スピード感あるダイナミックな支援活動が必要とされるでしょう。
 また、単なる保険とは異なる、実情に沿った様々の知財活用法を提案し、更に具体的事案に応じた活動支援を行う余地は、特に中小企業に対しては大いにあり ます。そして、このような支援活動が結実すれば、企業経営者に対しては業績に直結する最も喜ばれる実利を提供することができ、支援者にもそれが「人助けを した喜び」としてダイレクトに伝わるものと思います。
 このように、生きた経営活動に歩調を合わせて行う知財コンサルタント業務は、弁理士の他の業務に比べて非常にダイナミックであり、且つその成果が企業業 績に直結するという点で達成感を得やすいものと思われます(相応のリスクもありますが)。そう考えると、弁理士の業務の一つとして、出願業務から切り離し て考えたとしても、特に中小企業に対する知財コンサルタント業務には一種特有の魅力を秘めたものと言えると思います。
 以下では、中小企業に対する知財コンサルタントを再考するにあたり、手始めとして参考になると思われる事項について、他の資料からの引用を交えながら紹介していきます。

3.中小企業の知財活動に対する認識

3-1.積極的な企業の割合

 中小企業白書から、中小製造業における研究開発費の売上高比率と売上高経常利益率との関係を見ると、バブル崩壊後のいわゆる失われた十年の間において も、その後の景気回復期と比べ、研究開発費の売上高比率は特に低いわけではありません。中小企業は大企業に比べて体力に乏しいため、特に開発型の中小企業 では常に将来を見据えた研究開発に投資する必要があり、このデータはその姿勢を裏付けるものと考えられます。
 一方、研究開発により生み出された自社技術に関し、特許出願や営業秘密として保護するなど、積極的に何らかの対策をとっている企業の割合は、大企業での 67.6%に対して中小企業では32.3%であり、特に方針を定めてない、あるいは業務上重要視していない中小企業は67.7%も存在しているとのことで す*1。この数字を見た私の印象は、「これでも以外に多い」というものです。現実には、知財活動を行っているといっても、過去の一時的な対応であったり、 量や質においては十分ではなかったりして、実際に十分有効な知財活動を行っている企業数はもっと少ないのではないかと思います。

3-2.消極的である理由

 では、なぜ多くの中小企業では知財活動が十分に行われないのでしょうか。もちろん、中小企業ゆえに、予算的に知財活動に割り当てられる資金を十分に確保 できないという理由もあるでしょう。しかし、知財活動も設備及び人材への投資と同様に重要な投資対象であって、経営に強く結びついた活動であることを考え ると、知財活動に対する投資だけが消極的であることの理由としては十分と思われません。
 企業側には、「知的財産に関する知識が全くない」というのは別にして、「知ってはいるがそのメリットを知らない、またはメリットを知る機会がない」とい うケースがあります。しかし、中小企業に対して広報活動を行っても、食い付きが非常に悪いというのが実感であり、セミナーに参加したり参考書から知識を得 たりしても、そこで得た内容を自身の具体的ケースに当てはめて経営の一助とするには至っていないように思われます。そこには、知的財産を活用した場合の 「メリットを実感できない」という理由が多くあると思われます。
 このような中小企業においては、知財について「教科書的なメリットしか知らない」、「企業経営と知財活動とが結びつけられていない(知財活動が企業経営 から遊離して一人歩きしている)」などの実情があるようです。こういった実情が、知財活動への投資を極端に控えさせ、あるいは、その投資を有効に活用しき れない状態へと導いていると思われます。

4.知財活動の例

 上記の他にも中小企業が知財活動に消極的な理由は千差万別あるでしょうが、知財活動が経営と密接に関連するものであること実感してもらうことは大いに有 意義だと思います。そこで、特許庁が平成16~18年度に行った「地域中小企業知的財産戦略支援事業」の結果(以下、「知財コンサル10の視点」)*2か ら、実利を伴った知財活動の例や、支援する際の視点などを、いくつか要約して紹介します。

4-1.事例・視点の紹介

(1)発明に対する基本的認識について
特許権の特徴として、教科書的には排他的効果が挙げられますが、この効果は権利取得と同時に実感できるものではなく、また特許権侵害訴訟で勝訴でもしな い限り、時間を経ても実感しにくいものです。しかも、下請けを主とする中小企業だと、特許権の排他的効果を実感するのはなおさら難しく、知財活動に意義を 見つけにくいと思われます。一方、下請け的な中小企業から脱却して中堅企業へと経営拡大する意図があるのであれば、知財活動を避けては通れなくなります が、単に「他社を排除できます」といっても、下請けをしてきた中小企業にはインパクトに欠けるでしょう。
ここで、「例えば、当社が5千万円で買える機械は、他社であっても5千万円で買うことができます。しかし、特許をとれるのは発明をした当社だけであっ て、特許を取得した事業には他社が手を出せません。」という、ある企業経営者の発言(「知財コンサル10の視点」より)が参考になります。教科書的な排他 的効果だけを示すのではなく、経営者にとって身近な設備投資と対比することにより、排他的効果の特徴をより浮き彫りにしています。経営者に対しては、同じ 内容を説明するにしても、馴染みやすい事柄に絡めて説明することで理解を促せると思います。

(2)パートナーを惹き込むツール
中小企業が製造から営業や販売までの全事業を自社で行うのは容易ではなく、実際には様々のパートナーを必要とし、その中には自社より大きな企業が含まれ る場合もあります。そのときに、相手と対等に取引するには権利をもっていなければ難しくなります。特に、海外でパートナーを求める場合、特許がなければ相 手にされないケースも多々あります。こういった点から、ある企業では特許を、「自社にとってより良いパートナーと手を結ぶためのツール」としても見ていま す。即ち、中小企業からすると、直接的な排他的効果よりも、大企業や海外企業のように知財意識の高い取引先に対して、「その信用を得てより有利な取引をす すめるための有効なツール」としての方が実益がある場合もあります。

(3)経営拡大ツール
 特に開発型の中小企業の場合、自社のみでの製品供給には限界があるため、仮に爆発的なヒット商品が生まれると社会の需要に追いつけなくなります。また、 このように供給不足に陥った環境は、模倣品を市場に出すチャンスを他社に与えることになりかねません。従って、ある企業では、自社の生産能力だけでは供給 が間に合わない場合には、大企業にライセンスするという判断も考慮しています。
 ここで、大企業にライセンスすることで、自社の独自技術の流出が懸念されますが、上記のように模倣品の発生を抑制できるという効果や、市場の拡大による 収益向上といった効果を期待できる面もあります。また、当然ながらライセンスで得た収入を、次の製品の開発に向けることも可能です。従って、技術の流出と いうデメリットと比較して、ときにはライセンスを選択することも「有り」だと思われますが、いずれにせよ、このような選択を可能とするには、そもそも特許 権を保有していなければ話になりません。
 要するに、一般的な考え方とは違う側面から、大企業を巻き込んで「模倣品の発生を未然に防ぐツール」、あるいは「市場拡大を図るツール」としても知財を活用できると考えられます。

(4)取引先に対するプロモーション効果
 取引先は、中小企業が保有する特許に着目しているのではなく、その特許の内容である独自性のある技術に着目しているはずです。即ち、特に開発型の中小企 業からすれば、特許を保有していることが利益を生み出しているのではなく、特許を取得できるような独自性こそが利益を生んでいるのだと自覚する必要があ り、これを積極的にアピールすることで取引先の興味を惹くことができると思われます。この点から、「自社の独自性を、社外に対して客観的にアピールする ツール」として、特許庁のお墨付きたる特許権の取得は有効と考えられます。

(5)投資効率の向上
 企業にとっては投資を効率よく回収することが一つの命題であり、その点で特許権等の権利を取得することは重要です。しかし、権利がすぐに利益を生むわけ ではなく、経営方針や社会情勢の変化に伴って、当初ほどの利益が見込めない権利も後発的に発生し得ます。そのため、既に取得した権利を聖域とせず、更に権 利化前の出願も含めてこれらを定期的に見直し、事業に結びつけるのが困難な権利については、これを積極的に放棄することも必要でしょう。この場合、その権 利の維持費などとして浮いた資金を、新規出願や他の新たな対象に投資すれば、投資回収の停滞を防ぐと共に実情にあった投資を行なうことができます。

(6)ビジネスモデルに基づく投資対象の絞込み
 中小企業ではその限られた予算事情から、例え自社で新たに製品を開発した場合であっても、そこに含まれる全ての発明について特許出願できない場合もあり ます。その場合には、自社にとってコアとなる技術をどれにするか決めなければなりません。例えば、プリンタ装置のように、装置本体よりもインクカートリッ ジのような消耗品を販売する方が手堅いといったビジネスモデルの場合、特許出願の対象は消耗品に集中させるべきでしょう。このように、製品開発時から描い たビジネスモデルに基づき、予め、特許出願の対象とするところとしないところを想定しておくことにより、知財活動への過剰投資を抑え、メリハリをつけた効 率的な投資を行うことができます。

(7)技術・ノウハウの発掘・棚卸し
 知財活動といえば発明の権利化に目が向きがちですが、社内にはそもそも見落とされていたり特定の技術者のみに属する技術・ノウハウが多数存在していま す。そのため、技術・ノウハウが見失われてしまったり社員の退職に伴って失われてしまわないように、その蓄積や管理といった「見える化」も知財活動の重要 な一部となります。その際、特許出願又はノウハウ化に関する報奨制度を整備することにより、これが発明発掘や棚卸しのインセンティブとなって、効率的に技 術・ノウハウを「見える化」できるようになります。

(8)社員教育
 社員が新事業を提案してきたときに、従来製品に対する新規性・進歩性がどこにあるかを突き詰めさせ、特許出願の対象となる発明の構成要件を自分で考えさ せることも大切です。これにより、自分の思い付きや独りよがりな考えを、特許として認められるだけの文書に変えていく作業を通して「自己の客観化」が可能 になり、更には、自社の技術を客観視できるようになります。その結果、技術者自身が自社の技術的な強みがどこにあるのかを把握でき、今後の展開方向を適格 に予測できるようになるでしょう。

4-2.まとめ

 以上に紹介したもののうち、(2)~(4)は取引先対応の面での特許の位置づけに関するものであり、(5)~(8)は社内活性化に関するものと言えま す。このように、教科書的な「他社を排除できる」といった効果以外にも、知財活動には様々の特徴があります。従って、現に中小企業を支援する機会があると きには、このような特徴を踏まえて各企業の実情に合った具体的効果を提示することにより、知財活動のより正確な実態を把握してもらえるのではないでしょう か。

5.経営課題・解決手段の抽出 

 中小企業の経営者の方々に知財活動の実態を把握してもらい、更に活動支援をしようとする段階で次に行なうべきは、その企業の「経営課題の抽出」という作 業であり、経営課題が明らかである場合は、その「解決手段の抽出」という作業です。これらを如何に効率的かつ正確に行なうかについては、本場の経営コンサ ルタントをしても秘伝の技があるわけではなく、地道に王道を行くしかありません。しかし、王道としてよく使用される手法にも二種類あるそうで*3、ここで はこれらについて簡単に記しておきます。
 第一の手法は、詳細な経営分析の結果から経営課題を抽出する手法です。これは、データの分析が得意なコンサルタントがよく使い、データ量が限られている うちは確実・有効です。しかし、データ量が増えるにつれてデメリットが生じてきます。例えば、分析が終局を向かえた時点で何らかのミスが発覚した場合、そ れまでの膨大なデータ分析がお釈迦になる可能性があります。また、結論に至るまでに相当の時間を要しますし、ミスが発覚した場合の修正にも長時間を要しま す。
 第二の手法は、大まかな分析結果からいきなり「仮説」を立てるという手法です。この場合、仮説の成立性を裏付けるだけの分析を行なえばよいわけですか ら、短時間で結論に至る可能性がありますし、仮説が間違っていたとしても、膨大なデータ分析がお釈迦になるといったことにはなりません。但し、仮説を立て るといっても、経験を重ねて直感を磨かなければ、単に闇雲に仮説を立てていてかえって効率が悪くなります。しかし、経営分析に使えるデータは一般に膨大で あり、使える時間が有限であることを考えれば、この手法の腕を磨く方が現実的だと思われます。

6.実際のコンサルタント業務に際して

 現に知財コンサルタントを実行しようとする場合、知財活動を支援するという姿勢だけで向かうと、発明発掘から権利取得までの業務が目的化してしまう可能 性があります。例えば、その企業の知財活動にのみ着目して特許マップの作成などから支援をスタートすると、経営活動から知財活動が遊離してしまう可能性が あります。企業活動の基本は、投資とその回収にあり、知財活動はそれを支えるものですので、企業の投資対象を把握し、経営者の声を聞いて、その企業がどこ を目指しているのかを十分に認識した上で知財活動を支援する必要があると思われます。そうでなければ、最終的に経営者が満足する支援を提供することはでき ないでしょう。
 また、このような姿勢で取り組むには、弁理士であるとはいえ、通常の経営コンサルタントと同様の心構えが必要であり、そのスキルを見習う必要もありま す。即ち、支援する中小企業に対しては、「コンサルタントもする弁理士」ではなく、「知財を専門とする経営コンサルタント」と言えるだけの覚悟が必要だろ うと思われます。但し、その場合には、企業の財務分析に加えて環境分析も含む経営分析をする必要もあり、それには相当の手間がかかります。その点は、中小 企業診断士など、他の専門家とチームを組んで対応することで効率化を図ることができます。

7.最後に

 本稿は、特許庁が平成16~18年度に行った「地域中小企業知的財産戦略支援事業」の結果や、実際に中小企業を支援されているアドバイザーの方々から見 聞したことに基づいてとりまとめました。なお、特許庁や中小企業庁においては、中小企業を支援する制度を設けたり、支援事業を実施したりしています。今回 は紙面の都合上、省略しましたが、各庁のホームページなどでご覧いただければと思います。
中小企業は実に様々の悩みや課題を抱えており、各庁による適切な支援を期待するところではありますが、弁理士としても支援できることが少なからずあると 思います。そして、本稿を通じて、中小企業への知財コンサルタント的な支援活動に少しでも興味を抱いていただければ光栄です。

浦 利之
特許業務法人有古特許事務所
京都ブランチ長弁理士

平成14年 有古特許事務所勤務
平成16年 弁理士登録
平成17年 付記登録
平成19年 有古特許事務所京都ブランチ勤務

*1:三菱UFSリサーチ&コンサルティング株式会社「市場攻略と知的財産戦略にかかるアンケート調査」(2008年12月)
*2:詳しくは、特許庁編「ココがポイント!知財戦略コンサルティング~中小企業経営に役立つ10の視点~」(2009年3月)参照
*3:「コンサルティング入門」内田和成著,2007年8月10日初版発行,ゴマブックス株式会社

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