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有古ニュース  2011.7


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■弁理士 石田祥二

「機能的クレーム及びプロダクト・バイ・プロセスクレームの解釈について」

1. はじめに

 特許権者は、特許発明を業として実施する権利を専有しており(特許法第68 条)、特許請求の範囲記載の発明(以下、「特許発明」ともいう)の技術的範囲に属する他社製品を排除することができる。
特許発明の技術的範囲は、特許法第70 条第1項において『願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない』と規定されており、他社製品の属否を判断する上で特許請求の範囲の解釈、即ちクレームの解釈が重要である。
 しかし、クレームは、技術的思想を記載したものであるため抽象的に記載されており、対象とする技術的思想がどの技術的範囲の発明まで包含するか分かりにくい。にもかかわらず、クレームの解釈を規定する条文は、主に前述の特許法第70 条第1項(平成6年の法改正後は同法第70 条第2項も)だけである。それ故、クレームの解釈が交渉時や侵害訴訟等において争点となりやすく、クレームの解釈手法に関して過去に様々な判例が示されている。それらの判例が繰り返し積み重ねられていくことでクレームの解釈手法が確立されていき、またその一部の重要な判例(例えば、リパーゼ事件最高裁判決やキルビー事件最高裁判決)は、特許法の条文(特許法第70 条第2項や同法第 104条の(3)を創設させるに至る。このように、クレームの解釈手法は、判例の影響を受けやすく、判例が繰り返し積み重ねられていくことで明らかにされている。
 また、クレームの解釈は、特許法の法改正とも無関係ではなく、平成6年に特許法第36 条第5項が改正されたことでクレームの解釈手法が大きく変容した。というのも、平成6年の改正前は、特許請求の範囲について『特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載した項に区分してあること』と規定されていたが、改正により『…各請求項ごとに特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければはならない。』(特許法第36 条第5項)と変更され、発明の構成に関わらず、技術の多様性に柔軟に対応した特許請求の範囲の記載が可能になった。これにより、特許請求の範囲は、そこに記載される発明が明確である限り様々な表現で発明を特定することが許容されるようになり、様々な表現形式で記載されるようになった。代表的な表現形式としては、主に通常クレーム、機能的クレーム及びプロダクト・バイ・プロセスクレームの3つがあり、平成6年の改正後に記載された特許請求の範囲はこれら3つの何れかのクレームに分類されることが多い。
 通常クレームは、形状や構造等により発明が特定されるクレームであり、機能的クレームは、作用、機能、及び特性により発明が特定されるクレームである。また、プロダクト・バイ・プロセスクレームは、製法により発明が特定されるクレームである。これら3つの類型のクレームに係る発明は、類型の如何を問わず、前述の通り、特許請求の範囲の記載及び明細書の記載に基づいて技術的範囲が確定される(特許法第70 条第1項及び第2項)が、機能的クレーム及びプロダクト・バイ・プロセスクレームは、機能や製法により発明を特定しているため特許発明の技術的範囲が不明確になりやすく、特に機能的クレームでは通常のクレームよりも技術的範囲が広く解釈されがちで争点になりやすい。このような背景の下、裁判所は、これら類型のクレームに対応して、相互に矛盾ないクレームの解釈手法を侵害訴訟事件の中で判示している。
 そこで、今回は、機能的クレーム及びプロダクト・バイ・プロセスクレームがどのように解釈されているかについて、判例を参照しながら説明する。

2. 機能的クレームの解釈について

 機能的クレームは、その作用、機能及び特性により発明を特定するクレームである。そのため、その作用、機能及び特性を有する発明全てを包含し、出願人が出願当初に想定していない発明も包含されるものとして広義に解釈されることが考えられる。しかし、そうすると通常クレームよりも発明の範囲が不当に広く解釈されるおそれがある。
 そのことが争点となった事件として、例えばアイスクリーム充填苺事件(平成15 年(ワ)第19733 号)、や調理レンジ事件(平成19 年(ワ)第16025 号)がある。これらの事件では、「外側の苺が解凍された時点で、柔軟性を有し且つクリームが流れ出ない程度の形態保持性を有していること」(アイスクリーム充填苺事件)なる記載、及び「レンジ室内、と連通されレンジ室内の加圧及び減圧を繰り返す加減圧手段」(調理レンジ事件)といった機能ないし作用効果により特許発明を表現しているだけで、特許請求の範囲の記載で具体的な構成が明らかにされていない。そこで、裁判所は、かかる機能ないし作用効果で表現されている特許発明の技術的範囲を明細書の詳細な説明及び図面に開示された範囲内に限定する旨が判示されている。以下では、これらの事件における機能的クレームの解釈に関する判示部分を抜粋して示す。

(1)アイスクリーム充填事件
 アイスクリーム充填苺事件では、
 『 …特許請求の範囲に記載された発明の構成が作用的、機能的な表現で記載されている場合において、当該機能ないし作用効果を果たし得る構成であれば、すべてその技術的範囲に含まれると解すると、明細書に開示されていない技術思想に属する構成までもが発明の技術的範囲に含まれ得ることとなり、出願人が発明した範囲を超えて特許権による保護を与える結果となりかねない。しかし、このような結果が生ずることは、特許権に基づく発明者の独占権は当該発明の公衆に対して開示することの代償として与えられるという特許法の理念に反することになる。
 したがって、特許請求の範囲が、上記のような作用的、機能的な表現で記載されている場合には、その記載のみによって発明の技術的範囲を明らかにすることはできず、当該記載に加えて明細書の発明の詳細な説明を参酌し、そこに開示された具体的な構成に示されている技術思想に基づいて当該発明の技術的範囲を確定すべきものと解するのが相当である』 と判示され、また、判示されたクレームの解釈手法を適用した場合について 『…本件特許発明の目的は、アイスクリーム充填苺について糖度の低い苺が解凍された時にも、苺の中に充填された糖度の高いアイスクリームが柔軟性と形態保持性を有することにあるところ、本件明細書においては、これを実施するために、通常のアイスクリームの成分以外に「寒天及びムース用安定剤」を添加することを明示し、それ以外の成分について何ら言及していない。…加えて、後記2⑴記載のとおり、「芯のくり抜かれた新鮮な苺の中にアイスクリームが充填され、全体が冷凍されているアイスクリーム充填苺」自体は、本件特許発明の特許出願前の平成5年に既に広く販売されて、公知であったことに照らせば、本件特許発明に進歩性を認めるとすれば、充填されているアイスクリームが「外側の苺が解凍された時点で、柔軟性を有し且つクリームが流れ出ない程度の形態保持性を有していること」を実現するに足りる技術事項を開示した点にあるというべきである。
 上記によれば、本件特許発明における「外側の苺が解凍された時点で、柔軟性を有し且つクリームが流れ出ない程度の形態保持性を有していることを特徴とする」アイスクリームに該当するためには、通常のアイスクリームの成分のほか、少なくとも「寒天及びムース用安定剤」を含有することが必要であると解するのが相当である。』
と判示されている。

(2)レンジ事件
 調理レンジ事件では、
 『特許請求の範囲の発明の構成が機能的、抽象的な表現で記載されている場合に、当該機能ないし作用効果を果たし得る構成がすべてその技術的範囲に含まれるとすれば、明細書に開示されていない技術的思想に属する構成までもが発明の技術的範囲に含まれることになりかねず、特許権に基づく独占権が当該特許発明を公衆に対して開示することの代償として与えられるという特許法の理念に反することになり、相当でない。そこで、本件特許発明1の技術的範囲を確定するに当たっては、本件明細書1の発明の詳細な説明及び図面を参酌し、そこに開示された加減圧手段に関する記載内容から当業者が実施し得る構成に限り、その技術的範囲に含まれると解するのが相当である。』
 と判示され、また、判示されたクレームの解釈手法を適用した場合について
 『上記のとおり、本件明細書1には、加減圧手段の具体的構造としては、実施例として、ポンプ4が記載されている(上記イ(ウ)、(エ)、第1図)のみである。なお、本件明細書1には「調圧器5」がポンプ4と管路で接続し、両者を併せたものが加減圧手段とされているとも読めなくもなく、そのような構成を採り得ることが示唆されているともいえる。しかし、本件明細書1には、上記調圧気5の具体的構成や、それがいかなる作用、機能を有するものであるかについて、一切開示されておらず、当業者にとって「調圧器5」がいかなる構造、機能を有するものであるかを理解することはできない…。…そして、本件明細書1には、加減圧手段として採り得る他の構成は開示されおらず、また、他の構成を採用し得ることについての示唆もない。…以上によれば、本件明細書1の発明の詳細な説明及び図面を参酌して、その記載内容等から当業者が実施し得る加減圧手段の構成は、ポンプ4のようなそれ自体の作動により加圧及び減圧を繰り返すことができるようなもの、すなわち、加熱手段によるレンジ室内の加熱に伴う圧力変化とは無関係にそれ自体の作動によりレンジ室内の加圧及び減圧を繰り返し行うものと解するのが相当である。』
 と判示されている。

(3)裁判所の解釈
 アイスクリーム充填苺事件では、機能ないし作用効果で表現された構成を「開示されている具体的な構成に示されている技術思想に基づいて」確定すべきであると判示されている。そして、具体的に適用する際に、特許発明の目的を参酌し、その目的を実施するために必要な技術事項を抽出した上で発明の技術的範囲を確定している。なお、アイスクリーム充填苺事件では、目的を達成すべき必要な技術事項が特許請求の範囲の請求項に記載されていなかったため、その技術事項を有する発明に限定的に解釈したと考えられる。
 他方、調理レンジ事件では、「本件明細書1の発明の詳細な説明及び図面を参酌し、そこに開示された内容から当業者が実施し得る構成に限る」と判示されており、具体的に適用する際には、当業者が実施し得る構成とは、明細書においてその構成が示唆されているだけでは足りず、明示されている必要があり、そのように明示された構成を当業者が実施し得る構成として発明の技術的範囲を確定している。
 このように、アイスクリーム充填苺事件に比べて調理レンジ事件の方が機能的クレームに関してより限定的に解釈されている。しかし、アイスクリーム充填苺事件及び調理レンジ事件では、共に独占権は発明の開示の代償として付与されるという特許法の理念に基づき、明細書に開示されていない技術的思想に属する構成までも技術的範囲に含ませることは不当であり、特許発明の技術的範囲は、明細書及び図面を参酌して確定すべき旨判示しており、その点において機能的クレームの解釈の手法が一致している。

(4)記載時の注意点
 機能的クレームは、明細書に開示されていない技術的思想にまで範囲を広げて発明が保護されるものと解釈されがちである。しかし、アイスクリーム充填苺事件及び調理レンジ事件から分かるように、あくまで明細書に開示されている技術的思想の範囲しか発明が保護されない。ただし、このことは、特許発明の技術的範囲を明細書に記載された実施例に限定するものではなく、実施例として記載されていなくても、明細書に開示された発明に関する記述の内容から当業者が実施し得る構成であれば、その技術的範囲に含まれるものと解される(例えば、磁気媒体リーダー事件(東京地裁平8(ワ)22124 号)参照)。
 従って、機能的クレームを記載してより広い権利範囲を取得しようとする場合、1つの実施形態だけでなく、それとは別の実施形態で技術的思想を実施できないか、例えば代替部品、代替材料、別形状や別の構造を適用できないかを模索して、出願当初から様々なバリエーションの形態を明細書に記載しておくことが好ましい。そうすることで、機能的クレームに係る発明の技術的範囲が限定的に解釈されないようにし、所望の広い権利範囲を有する特許権を取得することができるようになる。

(5)米国及び欧州での解釈
 ちなみに、米国では、米国特許法第112 条第6項に機能的クレームに関する規定がある。そこには、組み合わせに係るクレームの要素は、特定の機能を遂行するための手段又は工程として記載することができ、当該クレームは、明細書に記載された対応する構造、材料又は作用と同一および均等物を対象にしているものと解釈される旨が規定されている。即ち、米国もまた、機能的クレームを許容し、機能的クレームは、明細書に記載された発明と同一及び均等のものまでしか含まれない。
 また、欧州では、欧州特許庁審査便覧/C部に機能的クレームに関する記載があり、そこには機能的クレームを許容する旨、及び実施例に限定されることなく、その均等物にまで機能的特徴として広く規定することができる旨が記載されている(特許庁ホームページ欧州特許庁審査便覧/C部参照)。

3. プロダクト・バイ・プロセスクレームの解釈について

 プロダクト・バイ・プロセスクレームは、形状や構造によって発明が表現しにくい場合に、製造方法によって発明を表現するクレームであるが、その特殊な表現形式であるが故に請求項に記載された製造方法以外の製造方法で製造された発明も技術的範囲に包含されるか否かが問題となる。
 そのことが争点となった事件として、例えば、止め具及び紐止め装置事件(平成14 年(ネ)第1089 号)及び多層生理用品事件(平成18 年(ネ)第10081 号)がある。これらの事件では、物の発明の記載において、「前記弾性体は、前記外殻体の前記孔を通って、前記外殻体の内部に導入される」(止め具及び紐止め装置事件)なる製造方法的な記載、及び「該仮固定が機械的圧着プレスによるものであり」(多層生理用品事件)なる製造方法的な記載によって物の発明が特定された場合について、特許発明の技術的範囲をどのように確定すべきかについて判示されている。
 これら2つの事件では、判示内容が異なっている。止め具及び紐止め装置事件では、物の発明であっ て製造方法の発明でないので、物の発明が製造方法により特定されていても製造方法は構成要件として解すべきでない、即ち製造方法で特定された構成要件は除外して特許発明の技術的範囲を確定すべき旨が判示されている。他方、多層生理用品事件では、製造方法によって特定せざるを得ない合理的な理由が存在するような特段の事情が認められない場合、特許発明の技術的範囲は、製造方法に係る構成要件をも含めた特許請求の範囲の記載全体に基づいて確定されるべき旨判示されている。以下では、これらの事件におけるプロダクト・バイ・プロセスクレームの解釈に関する判示部分を抜粋して示す。

(1)止め具及び紐止め装置事件
 止め具及び紐止め装置事件では、
 『…、構成要件F を除外して物の発明である本件発明1を特定することができないというのであればともかく、構成要件F を除外しても本件発明1の物としての構成は特定可能であり、また上記のような前提解釈を採用すべき特段の事情を認めるべき証拠はないので、構成要件F に係る方法以外の製造方法によらないで製造された物も、他の構成要件のすべてに該当する物であれば、本件発明1に含まれ得るものというべきである。したがって、被告製品の侵害の有無を判断するに当たっては、構成要件F の充足の有無を除外して考えるべきものである。』
 と判示されている。

(2)多層生理用品事件
 多層生理用品事件では、
 『物の発明に係る「特許請求の範囲」の記載中の一部に発明の対象となる物の製造方法が付加して記載されているときに、当該発明の対象となる物を、その構造や性質により直截的に特定することが不可能ないし困難であるなど、製造方法に係る構成を規定せざるを得ない合理的な理由が存在する場合はさておき、そのような特段の事情の認められない場合においては、当該発明の技術的範囲は、製造方法に係る構成要件を除外して確定されるべきではなく、製造方法に係る構成要件をも含めた特許請求の範囲の記載の全体に基づいて確定されるべきである。
 これを本件についてみるに…本件特許発明において、「多層生理用品」という発明の対象たる物を、構造や性質により直截的に特定することが不可能又は困難であり、製造方法によって物を特定することに合理的な理由が存在するような特段の事情を認めることはできないから、本件特許発明の技術的範囲は、「該仮固定が機械的プレスによるものである」との構成要件を含めた特許請求の範囲の記載の全体に基づいて解釈されるのが相当である…。』
 と判示され、また、判示されたクレームの解釈手法を適用した場合について
 『本件において、仮に機械的圧着プレスとは異なる方法により仮固定を行っているものであっても、「物」としての構成が客観的に同一であれば、構成要件D を充足すると解する余地があるとしても、被告製品の構成が機械的圧着プレスを主たる手段として仮固定を行っているものと客観的に同一であることを認めるに足りる証拠は、本件記録を検討しても、これを見いだすことができない。』
 と判示されている。

(3)裁判所の解釈
 止め具及び紐止め装置事件では、構成要件F を除外して発明の物としての構成が特定できない場合を除き、その構成が特許請求の範囲に記載された製造方法によらずに製造された構成であっても、他の構成要件を充足するものであれば、特許発明の技術的範囲に含まれるというべきであり、製造方法に係る構成要件を除外して確定されるべき旨が判示されている。従って、プロダクト・バイ・プロセスクレームにおける製造方法の記載は、物を単に特定するための記載に過ぎず、どのように製造方法により製造された物かを特定するための記載ではないと解釈されている。それ故、その物自体を有していれば、物の製造方法の一致及び不一致を問わず構成要件を充足していると認めている。
 他方、多層生理用品事件では、止め具及び紐止め装置事件よりも更に詳細に検討しており、「発明の対象となる物をその構造や性質により直截的に特定することが不可能ないし困難であるなど、製造方法に係る構成を規定せざるを得ない合理的な理由が存在する場合」はさておき、そのような特段の事情が認められない場合は、製造方法に係る構成要件を除外して確定されるべきではないと判示されている。従って、発明が形状や構造等によって直截的に特定できるにも関わらず、製造方法によって特定された場合、その発明は製造方法によって構成要件が特定されることに特徴があり、その製造方法によって特定される構成要件を除外して発明の技術的範囲を確定すべきでないと解釈されている。
即ち、プロダクト・バイ・プロセスクレームは、特段の事情が認められない限り、特許請求の範囲に記載された製造方法によって特定された発明に限定して解釈されている。

(4)裁判所の解釈の矛盾
 このように、プロダクト・バイ・プロセスクレームは、特許請求の範囲に記載された製造方法以外の方法によって製造された同一の発明についても発明の技術的範囲に包含すべきであるという判例と、包含すべきでないという判例がある。そのため、プロダクト・バイ・プロセスクレームは、その発明の技術的範囲が明確ではなく、そのクレーム解釈理論そのものが法的安定性に欠けるきらいがある。

(5)プロダクト・バイ・プロセスクレームの問題点
 また、止め具及び紐止め装置事件の判例によれば、構成要件を除外して発明の物としての構成が特定できない場合を除き、その構成が特許請求の範囲に記載された製造方法によらずに製造された構成であっても、他の構成要件を充足するものであれば、特許発明の技術的範囲に含まれるというべきであり、製造方法に係る構成要件を除外して確定されるべきとされている。しかし、化学系の物の発明はさておき、機械系及び電気系の物の発明では、一般的に製造方法でしか発明の物としての構成が特定できない場合が稀であり、製造方法によって特定される構成要件が殆ど除外され得る。そのため、発明の技術的範囲が不当な広がりを見せて明細書に開示されていない発明においても保護することとなり、特許法の理念に反することになる。それ故、多層生理用品事件のように、一部の例外を除いて
製造方法によって特定される構成要件を除外せずに解釈し、特許請求の範囲に記載された製造方法以外の方法によって製造された同一の発明についても発明の技術的範囲に包含すべきでないとすることが好ましい。
 しかし、包含すべきでないという解釈手法においても、発明が形状や構造等によって直截的に特定することが不可能ないし困難である場合等、製造方法によって規定せざるを得ない合理的な理由が存在する場合は、製造方法に係る構成要件が除外して確定されると解する旨が判示されており、前述する合理的な理由が存在する場合というのが争点となり得る。ところが、多層生理用品事件では、出願過程において製造方法の利点を主張し、また製造方法により規定しなければ特許権に無効理由が有していたため、特許発明が「発明が形状や構造等によって直截的に特定することが不可能ないし困難である場合等、製造方法によって規定せざるを得ない合理的な理由が存在する場合」でなく、製造方法を含めて解釈すべき旨の判断しかされていない。即ち、「製造方法によって規定せざるを得ない合理
的な理由が存在する」ことを充足する場合について、具体的な要件が明示されていない。
 このように、プロダクト・バイ・プロセスクレームは、特許請求の範囲に記載された製造方法以外の方法によって製造された同一の発明についても発明の技術的範囲に包含されると解釈すると特許法の理念に反し、また前述のように特段の事情がある場合のように例外的に認めたとしても特段の事情とはどの要件を満たすべきなのか明確でなく、法的安定性に欠けている。それ故、プロダクト・バイ・プロセスクレームだけを特許請求の範囲に記載することは好ましくない

(6)記載時の注意点
 機械系や電気系では、一般的に形状や構造等によって直截的に発明を特定することができる。それ故、物の発明の場合、形状や構造等によって直截的に発明を特定してクレームを作成することをまず試み、別の側面で発明を捕らえる際に製造方法によって発明を特定するようにすることが好ましい。この際、製造方法によって特定された発明において、製造方法も発明を特定する上での1つの特徴であり、発明の構成要件として限定的に解釈され得ることを認識しておく必要がある。

(7)米国及び欧州での解釈
 ちなみに、米国の判例でも、製造方法で特定された構成要件を除外して解釈した旨の判決(Scripps Clinic & Research Foundation v. Genentech, Inc. 事件(927 F. 2d 1565, 1583))と、それを含めて解釈した判決(Atlantic Thermoplastics Co. v. Faytex Corp. 事件(970 F. 2d 834))の両方が存在いた。
しかし、2009 年5月18 日に、プロダクト・バイ・プロセスクレームの権利範囲解釈に関して、全員法廷判決が出た(Abbott Laboratories v. Sandoz, Inc( en banc))。ここでは、後者の判決が支持され、製造方法で特定された構成要件を含めて解釈することが明らかになった。
 なお、欧州では、クレームの記載要件として製造方法によってしか発明の対象となる物の発明を特定できない場合に限り、製造方法によってその物を特定するクレームを記載することができるとされ、そのプロダクト・バイ・プロセスクレームにおいて製造方法によって特定されたその物は、製造方法によらない方法で製造された物も含めて解釈されている。

筆者履歴

大阪府立大学工学研究科機械工学科機械系専攻博士前期課程修了後、2003 年より特許事務所勤務し、2004 年弁理士登録。2006 年より有古特許事務所に入所。主に、機械系及び制御系の出願、鑑定及び審判を担当しております。

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